「Jリーグの試合≒サッカーの試合」この概念を作ったのは川崎フロンターレ?!

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一般的に「Jリーグの試合」といえば、“サッカーの試合”だと思われるだろう。観客やサポーターがスタジアムに足を運んで、プロ選手が魅せる試合を見て帰る。これが一般の方が抱いているJリーグの試合模様のはず。

 

しかし、「Jリーグの試合=サッカーの試合」という既成概念をぶち壊したチームがある。それは、「川崎フロンターレ(J1)」だ。川崎フロンターレは、神奈川県川崎市をホームタウンとして活動しているチームで、2017年度のJリーグ王者でもある。

 

川崎フロンターレが、Jリーグの試合を一種の“テーマパーク”にしてしまった。その背景には、クラブによる地道な地域密着活動がある。Jリーグ開幕当時、川崎市川崎フロンターレは存在しておらず、代わりに「ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)」が活動していた。開幕したての頃は、地元・川崎市ヴェルディ川崎への応援があったのだが、移転の話が出てからは熱が徐々に冷めていった。

 

そして、ヴェルディ川崎川崎市から撤退していったあと、富士通サッカーチームが「川崎フロンターレ」としてJリーグに加盟。等々力陸上競技場をホームスタジアムとして活動をスタートさせた。しかし、川崎フロンターレへの風当たりは強かった。

 

実は川崎市には、現在の横浜DeNAベイスターズ千葉ロッテマリーンズなどいくつかのプロチームが存在していたのだが、いずれも撤退・移転してしまっており、「スポーツ不毛の地」といわれていた。実際にヴェルディ川崎も出ていってしまったため、川崎フロンターレへの関心は底をついていたという。

 

クラブは、地域密着型の活動を掲げ地域のお祭りやイベントなどに積極的に顔を出した。その効果も徐々に出始め、Jリーグ加盟当時は数千人しか入らなかったスタジアムも、入場者数が右肩上がりで増加し、2018年現在では平均観客者数が2万人を超すようになった。

 

当然、サッカーチームとしての成績が良いことも背景にはあるが、もう一つ大事な要因がある。それは「イベント」だ。川崎フロンターレは、毎試合、必ず何かしらのイベントを組んでいる。例えば、2018年8月15日に行われたサガン鳥栖戦では、東急電鉄とコラボを組んで上田電鉄(長野県)に譲渡されていた実際の電車を等々力陸上競技場に輸送し、展示した。

 

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他にも名古屋グランパスとの試合を「難局物語(元ネタ:南極物語)」と称しイベントを実施。この時は、実際に南極の昭和基地に居た隊員にお願いをして、南極で始球式を実施してもらった。

 

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難局物語に次ぐ、ビッグプロジェクトはもう一つある。それは「宇宙強大(元ネタ:宇宙兄弟)」。このイベントでは、国際宇宙ステーションISS)に滞在していた大西宇宙飛行士と等々力陸上競技場を結び、交信していた。

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この2つのイベントのすごい点は「国家機関」を巻き込んでいるということ。難局物語では、国立極地研究所。宇宙強大では、NASAJAXAを巻き込んでのプロモーションを展開し、話題を呼んでいる。普通のサッカーチームができることではないことを、川崎フロンターレはやってのけた。

 

分かりやすく例えるなら、鉄腕DASH(日テレ)のようなもの。番組の主軸であるTOKIOのメンバーが、農業や環境保全にずっと力を入れ続けた結果、行政も「TOKIOさんならいいですよ」と許可を与えるように、川崎フロンターレも地域密着型のイベントを展開し続けた結果、国家機関も「川崎さんならいいでしょう」とコラボを許してくれている。

 

このように川崎フロンターレは、観客に対し「ただサッカーの試合を見せる」だけでは満足していない。「サッカーの試合すらイベント」として考え、試合がある日の等々力陸上競技場を一種の“テーマパーク”にすることで、バリューを与え続けているのではないか。

 

観客の満足度を高めることで、川崎フロンターレというチーム名のブランディング化も成功し、“一体感”が生まれる。一体感が生まれる等々力陸上競技場は、他のどのスタジアムよりも雰囲気が異なり、川崎特有の空気が生じる。その結果、選手は雰囲気に応えようとし結果を出す。すべてが好循環になる。

 

サッカーチームは生き物だ。シーズンが変われば同じチームでも雰囲気が一気に変わることがあるだろう。しかし、サポーターの雰囲気はシーズンを重ねるごとに一体感が生まれつつある。その中で、新たに興味を持っている人に、どのようなアプローチをするかで新規顧客層の開拓につながるかが分かれる。

 

クラブとして、観客に与えるバリューの用意はできた。後はスタジアムの改修を待つのみ。現状では、チケットが即完売し高値で転売されている。これでは“本当に楽しみたくても楽しめない”。そういった状況を打破するためにも、スタジアム改修やチケットの販売方法の見直しが待ち望まれる。